バイオナノシステムズ研究会

メタル化ペプチドを用いる金属の精密集積制御と機能開拓
 -周期表分子の創製を目指して-
Transition-Metal-Bound Peptides: Synthesis, Structure, and Functions

高谷 光(京都大学化学研究所 附属元素科学国際研究センター・准教授)
Hikaru Takaya, Associate Professor
Institute for Chemical Science, Kyoto University


 無秩序でランダムな元素の組合せから意味のある機能や現象が生じることは無い。これはドレミファソラシドの7音階を無秩序に並べても音楽として認識されうる旋律とはならないが、ある一定の順列・組合せに従って並べられた音符だけが美しい音楽として認識されることと似ている。物質化学は元素の組合せによって生じる機能や物性という「旋律」を調べる学問であり、その旋律を読み解くためには種々の元素の組成・配列・空間配置を自在に制御するための基礎的方法論の開拓が不可欠である。我々のグループでは「組成・配列・空間配置」を制御して金属を集積化し、異種金属の相互作用に基づく創発現象の発見,あるいは単一金属錯体では実現不可能な機能・物性の創出を目指して系統的な研究を進めてきた。特にアミノ酸やペプチドを利用した金属集積に注力した研究を行った結果、様々な物性や機能を有する遷移金属錯体を望みの組成・配列で集積化できるユニークな手法の開発に成功している(スキーム1)。本講演では1) PdおよびPt結合型ペプチドの開発と超音波刺激を利用する金属集積制御1、2) Pd-Pt異種金属混合型ペプチドの選択的合成と異種金属効果に基づく物性制御等を含めた最近の成果について紹介する。


スキーム1.メタル化ペプチドを用いる金属の組成・配列・空間配置制御


 グルタミン酸由来のパラジウム結合型ジペプチドの有機溶媒溶液に超音波(0.45 W/cm2, 40.0 kHz)を照射すると、溶液が流動性を失い超分子ゲルを与える(図1)。WAX, SAX(SPring-8: BL19B2, BL40B2)測定およびAFM観察等から、得られたゲルはβ-シートを単位とする多層積層型構造を形成していることが確認され、超音波刺激による遷移金属錯体の空間制御が可能であることが明らかとなった。


図1.パラジウム結合型ジペプチドの超音波ゲル化


また、様々な超音波照射条件下に詳細な速度論的研究を行った結果、ペプチドの超音波ゲル化は図2に示す様に,音波照射によって溶液内に発生するマイクロキャビテーションの熱および力学作用によってペプチドの分子内水素結合が切断され、これが分子間水素結合へと組み替えられることによって自己組織化が進行していることを明らかにした。


図2.パラジウム結合型ジペプチドの超音波ゲル化機構


 我々の手法を用いればメタル化アミノ酸の連結順序を変更するだけで望みの金属配列を実現することができる。得られた異種金属集積型ペプチドでは、異方性や異種金属間の相互作用に基づく新規物性の発現が期待される。我々はパラジウムと白金が結合した4種類のジペプチド(Pd-Pd, Pd-Pt, Pt-Pd, Pt-Pt)を合成に成功し、その物性や機能について詳しい研究を行った。その結果、金属配列によって超音波応答性が異なり、超音波ゲル化における最低ゲル化濃度(mM/EtOAc)がPd-Pd (7.0) > Pd-Pt (13.0) > Pt-Pd (12.5) > Pt-Pt (17.5) の順に変化することを見出した。また発光挙動について詳しく調べたところ、ジペプチドの発光強度(λex = 385 nm(LMCT))が発光性のPt錯体の含有数に比例せず、Pd-Pt > Pt-Pd > Pt-Pt > Pd-Pdの順に変化する“異種金属配列効果”を見出した。

さらに我々は、組成・配列制御されたジペプチドの自己組織化による金属の空間配置制御の可能性について検討を行った結果、これらPd-Ptジペプチドのクロロベンゼン溶液に超音波を照射することで,パラレル型会合選択的な自己組織化が進行し,PdおよびPtの相互空間配置が制御されたβ-シート積層型超分子集合体が得られることを見出した(図3)。 


図3.Pd-Ptジペプチドを用いる金属の空間配置制御機構

 我々は金属が側鎖に化学結合したメタル化アミノ酸を開発し、これらの連結と自己組織化によって種々の有用金属元素を望みの組成・配列・空間配置に集積化する基礎的手法の開拓に成功した。本法を用いれば金属の相互作用や機能の連携を合理的にデザインすることが可能であり、これによって元素の組合せに基づく新規物性の探索や未知現象発見のための有効なツールを提供できると考えている。我々の研究がそのための一助となることを願ってやまない。


1) Isozaki, K. Takaya, H.; and Naota, T., Angew. Chem. Int. Ed., 46, 2855 (2007)



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